第2章 一山いくらの林檎 後
大きく息を吸う。深呼吸。オッケー、落ち着いた。
「牛尾、それ本気?」
「本気だよ?お金ならいくらか貯金があるからね。」
牛尾らしからぬ貯金という言葉に、あたしは思わず「貯金?」とおうむ返ししてしまう。
「家は寝泊まりするだけだから光熱費も大してかからなくてね。出費はほとんど家賃と食費だけなんだ。」
牛尾は淡々と話を進めて行く。いつの間にやら牛尾はあたしの体から離れて、あたし達はいつもの距離感になっていた。
「僕はこの通り物欲もほとんど無い。研究は研究室からお金が出るし、時間も無いから遊ぶお金もいらない。でも実家からの仕送りと仕事の給料が支出の3倍ぐらいあってね。お金が貯まっていく一方なんだよ。」
急に現実的な話になっちゃったけど、つまり普通に生活していれば毎月支出の2倍黒字なわけ?
何こいつ、やっぱりただのボンボンじゃないか。あたしなんて毎月金欠だぞ。むかつくからちょっと寄越せ。じゃなくて。
「本当にあたしを買い占めるの?」
「うん。毎日でも。」
心臓がまたドクンと音を立てる。
毎日あたしを大切にするためにあたしを買い占める。
それはつまり、あたしを独占したいという事で。
まさかですが・・・告白という事でいいんでしょうか?
「嫌かな?」
牛尾の優しい優しい笑顔があたしの目の前にあった。