第2章 一山いくらの林檎 後
締め付けが楽になったかと思うと、牛尾の顔が目の前にあった。
泣いた跡は見受けられない。いつものように整った顔だ。
ただ違うのは、怒りさえ感じられるほど真剣な表情をしているという事で。
「2000円もしないって、じゃあいくらだって言うんだい?」
両肩に置かれた牛尾の手が、手袋越しだというのに熱く感じられた。
「えっと・・・。」
その目に射竦められたあたしは、少しばかり言葉を失って考え込んだ。
自分の価値はいくら、か。さすがに自分でもタダとは思わないけれど。
「そうね・・・100円ぐらい?」
一山いくらの林檎と変わらない、庶民の味方、なんてね。
「じゃあ僕が一生土井さんを買い占めよう。」
牛尾の提案に、あたしは雷に打たれた思いがした。
「一生土井さんを買い占めて、大切に大切にする。そうしたら土井さんも自分を大切にするようになるだろう?」
「い、や、あの。」
戸惑いの絶頂にいるあたしは、息も絶え絶えにかすれた声しか出てこなかった。
あぁもう馬鹿!心臓のやつうるさいぞ!黙れ!止まれ!止まったら死ぬか!よし!ちょっと調子を取り戻して来た!