第9章 戦利品の✘✘が戻る
気が付けばあの夏休みは何だったんだってくらいに月日は経っていて、もう秋が深まるどころの話じゃなくなっていた。冬だぜ冬。
「おぉー!雪じゃあねぇか!」
俺が10分休憩に入っていると同僚が窓から外を見て静かに降ってくる雪を見て興奮してやがった。そんな歳になってまで騒ぐたぁ…あきれちまうな。
「元親ー、これ積もるかな」
「知るかよ…っつーか雪でよくそんなはしゃげるなァ」
「何言ってんだよ!積もったらかまくら作れるんだぜ?雪だるまだろ、あと雪合戦!」
「ガキかよ」
どうやら同僚はまだガキの心を忘れてねぇらしい。
俺は雪は好きだがどうも寒いのが好きになれない。手はかじかんで作業に集中できないし、炬燵に取りつかれちまって外に出る気も失せる。
「…にしてもよ、元親」
「あ?」
「隣の部署の…えーっと、名前何だっけ」
隣の部署、それは恐らくデザインの方のこと言ってるんだろうが、コイツは何を言いたいんだか。名前を思い出してくれなきゃ話題が進まねぇだろうが。
ソイツが唸っているうちに俺の10分休憩は終わった。
「思い出したら声かけろよー」
「おー……あっさん!さんだよっ」
その名前を聞いた瞬間体が反射的にビクっとなって、その同僚の肩をがっしり掴んでいた。
「で、なんだ、がどうかしたのか」
「そんなアツくなんなって…お、落ち着いて聞けよ」
そんな俺にヒいちまったのか同僚は俺をなだめた。俺自身も長く顔を合わせてねぇの名前を聞いただけでこんなに反応するとは思わなかった。
「さん、あの病院に入院してるらしいぜ」
同僚が指さした先はこの会社から数分でつく大きな病院だった。
気が付けば俺は外に出ていて、その病院に転がり込んでいた。