第12章 鮮明
「女王陛下からの手紙ですか?」
「うん……なんだろう」
中を開けてみると、新種のドラッグに関する調査と首謀者を突き止めることとあった。つまりは捕まえなくてもいいけど、一体どこの誰なのか突き止めて女王に報告すればいいってこと?
「執事さん、私にはこんな依頼……出来ないかもしれない」
「何を仰っているのですか。ヴァインツ家当主たるものが、これくらいの依頼こなせなくてどうします?」
「でも……私、何も出来ないし」
「お嬢様。私がいるではありませんか……」
「ねぇ、執事さん、お名前つけていい?」
「ん? 突拍子もないですね。どうぞ」
私は手元にあった本を取って、彼に表紙を向けた。悪魔の彼に、つけるべき名前ではなかったことを知ったのは、随分後になるけれど。
「ミカエル! 今日から執事さんの名前は、ミカエルねっ」
「……悪魔に天使の名前、ですか。はあ、貴女はどうしようもない主人ですね」
それでも彼は、その名を微笑みながら受け取った。
「ミカエルとだけ名乗るのも、あれですね。ミカエル・ブラド……とでも名乗ると致しましょう。それらしくて、いいでしょう?」
「ふふ、いいと思う! なんだか飼い犬に名前をつけるみたいで素敵」
「……くそ生意気な餓鬼ですね、貴女は」
「ミカエルって意外と沸点低い?」
何もかも失った私には、結局彼しかいなくなった。それはよかったことなのか、逆に悪かったことなのかまでは実のところわかっていない……。ただその時の私には、彼に頼るほかなかったように思う。
彼の言うままに、私は初めて女王の命を受け入れることとなった。
新種のドラッグ。名を”エンジェルドラッグ”
これが更に私の運命を狂わせるなどと、知る由もないまま。