第27章 楽園
「さて、参りましょうか。愛しいアリス」
セバスチャンのかっこつけた何とも臭い台詞に、アリスは思わず吹き出した。けれど、差し出された手を、彼女は迷うことなく取るのだった。
「何処までも行ってやるわ。貴方が傍にいるというのなら」
ヴァインツ家は全ての財産をアリス・ヴァインツの手に落とし、衰退していった。屋敷を失った今、アリス自身もヴァインツの名に縛られて生きることを捨てる決心をした。最終的にクライヴの行いは許されることではないにしろ、アリスはそれを受け入れることを決めた。
同時に、悪の貴族として女王の鷹の目になっていたアリス達だったが、シエルの計らいで何事もなく無事に女王の呪縛からも解放されることとなった。そもそも、女王が何も言ってこなかったこと自体不思議でならないわけなのだが。
アリスとクライヴは、シエルの屋敷に身を置いていた。
「あら、セバスチャン。庭で何をしているの?」
「ええ……赤い薔薇でも育ててみようかと」
小さな植木鉢を持って、セバスチャンはアリスに微笑みかけた。植木鉢からはまだ芽は出ていない。
「シエルって確か、白い薔薇が好きなんじゃなかったの?」
「そうですね……まぁ、植木鉢で育てる分には坊ちゃんも何も言わないでしょう」
「急に赤い薔薇を育てるなんて、どうしたのよ?」
「……アリスに、贈りたいからですよ」
「私に?」
セバスチャンは植木鉢を下に置いて、手袋を取り去る。直にアリスの頬に触れたセバスチャンの紅茶色の瞳が、しっかりと彼女を写し取る。
「赤い薔薇の花言葉は……"あなたを愛します"」
そっと、セバスチャンはアリスの唇を自らの唇で、奪う。
誰かを愛することに正解はないだろう。
正しさも間違いも、惹かれ合う者同士にそんなものは価値がない。
いつか、赤い薔薇が咲く時には
愛ある幸せを
貴女に