第12章 鮮明
「――……っ!!」
泣いた、声が枯れるまで。嗚咽も交じって、声にならなくなっても。ただ泣き続けた。腹立たしいことに、執事さんは私の頭をまるで小さい子供をあやすように優しく撫で続けた。「よしよし」と言葉にしながら。
その手は、昔感じたパパの大きくて優しい手に似ていた。いつだって泣き虫の私を、大きな手で泣き止ませるのだ。執事さんの手は、パパの手にとても似ていたから……もっと涙が零れ落ちた。
「私が、貴女のお傍にいますよ。お嬢様」
パパ、ママ、叔母様、叔父様、皆……皆いなくなった。
私が願いさえしなければ、私がこんな悪魔と契約しなければ……!
「貴女の太腿に刻まれた契約の証がある以上、私は貴女の忠実なる下僕。さあ、お部屋に戻りましょう」
「執事……っ、さんっ」
「なんですか?」
「もうっ、こんなこと……しない、でっ」
「……かしこまりました」
その時執事さんが、どんな顔をしていたのか……私は知らない。
戻った部屋のベッドは、嫌というくらいヴァインツ家の香りが染みついていて、寂しくてまた涙が零れそうになった。
その度に、周りのお世話をしながら執事さんは傍に居続けてくれた。
私が十二歳になった頃、代々ヴァインツ家は悪の貴族として女王陛下に仕えていたらしく……正式に私がヴァインツ家当主になったと同時に、初めての依頼が舞い込んできた。