第12章 鮮明
「ああ、お嬢様。玄関ホールがまだですよ。さあ、私と行きましょう」
「執事さん……っ!?」
手を引かれ、ゆっくり玄関ホールへと降りる。薄暗くて、よく見えない……。むせ返るような鉄の匂い。これは、血?
「――っ……!!」
「アリスお嬢様、貴女を一人にしないものの中に、彼らは含まれていなかったので掃除しておきました」
玄関ホールは、血の海になっていた。
「やっ……いやあああっ!!」
「何をそんなに驚かれているのですか? 今、貴女を一人にしないものといえば悪魔である、私くらいのもの。他の者達は、貴女を一人にするために悪さを働いていたので。私が大切な主人の為に、殺しておきました」
殺した……?
唇が震える、手足も震える。隣で笑う男が、またあの時と同じようにまったく知らない人の顔をしているように思えた。いや、元々私はこの人のことを何も知らないのだから、知っている顔をするのは駄目だろう。
黒い髪が、赤い瞳を隠していた。何よ、嬉しそうにこっちを見てんじゃないわよ!!
「私はそんなこと頼んでない!! 私は、誰も死なないで幸せに……っ」
「幸せに? 何を、くだらないことを言っているんですか?」
くしゃりと私の手の中で、執事さんのシャツは皺を作った。彼のシャツを掴んだ私を咎めることもなく、執事さんは淡々と私の目線に合わせて言葉を選んでは、まるで言い聞かせるようにゆっくりと話し始めた。