第2章 帳
「何をしているんだ? クライヴさん」
「ああ……ギル。こんなところにいましたか。貴方こそ、何をしているのです? アリス様がお怒りでしたよ」
「げっ……! もしかしてサボってたのがばれたか!?」
「あのお方が、貴方の所業に気付かないわけがないでしょう? 馬鹿なのですか? 今日は大事なお客様がいらっちゃいます。庭の手入れを、と」
「わかったよ! クライヴさんには手間をかけたな」
「いえ……これくらい、ヴァインツ家の執事たるもの、当然です」
クライヴはギルを上から下まで眺める。その光景に、ギルは不可解そうに首を傾げた。
「どうかしたか?」
「ああ、いえ。ギルは本当に小さいなぁと思いまして」
「馬鹿にしてんのか!?」
赤髪の短髪。漆黒の瞳がクライヴを睨み付ける。クライヴは「怖い怖い」と笑いながら、今度こそ庭を去った。ちらりと後ろを向けば、ギルは然程もう気にしていないらしく、切り替えるように庭の手入れを始めた。
(まったく、もう少し可愛げがあれば姫様の手を煩わせることもないのに)
懐中時計を開けば、時刻はそろそろ伯爵が到着する一時間前。
「早く戻って、姫様の身支度を整えて差し上げなくては」
アリスの身支度を整えるのは、メイドではなく彼、執事の仕事。アリスはクライヴ以外の者をあまり信用してはおらず、自らの身の回りの世話は全て彼に一任している。それだけ、彼を信頼しているということだが、だからと言って彼女が使用人達に対する信頼がないというわけではないらしい。