第2章 帳
悪の貴族、女王の眼ヴァインツ家。そうでなければ、彼女の屋敷で働くことさえ叶わないだろう。
少なくともそれを知るクライヴは、他の使用人達を無下に扱うことをしない。
「ナタリー、野菜を抱えてどうかしましたか?」
アリスの部屋へ向かう途中、厨房近くを通りかかれば料理人のナタリーが大きなかごに野菜を沢山抱え慌てふためいていた。
「いや……その……それが、だな」
「どうか、しましたか?」
「実は……」
彼女は厨房の扉を開けた。クライヴが覗き込むと、何故か厨房は嫌な煙が立ち込め焦げた香りが充満していた。とても美味しそうな料理を作っているとは思えない、異臭がしている。
「ナタリー……貴方、また調理法を間違えたのですか?」
「悪いっ! 折角クライヴに教えて貰った料理を披露しようか思ったんだけど……そしたら、こんなことに。あたしって料理向いてないのかな?」
肩を落とし、俯く彼女にクライヴは優しく頭を撫でた。
「それで、その野菜は?」
「上質なお肉を台無しにしてしまったんでな、せめて何か野菜で出来ないものかと」
「と言いましても、お肉は必須でしょう。私が調達に行く間、ナタリーは野菜でヘルシーなスープでも作っておいてくれませんか?」
「大丈夫だ!」
「メインディッシュと、ドルチェは私にお任せを」
「……おうよっ」
クライヴは一旦、アリスの部屋へと急ぐ。控えめにノックをすれば部屋の主が「入りなさい」と声をかける。