第11章 終焉
「坊ちゃん、アリス様。屋敷に戻りましたら暖かい紅茶をいれて差し上げましょう。美味しいクッキーも、お供に」
「ヴァインツ家のおもてなしも結局中途半端だったわね! ごめんね、シエル」
「別に気にすることはないだろう。時間なら、あるのだから」
微笑んだ四人の顔が、太陽によって眩しく照らし出される。永遠かと思われた長い船の旅は、こうして幕を閉じた。
「ふぅん、つまりラビットファミリーは海の藻屑となったわけか」
「ええそうよ。グレイ伯爵、ありのままを伝えているのに随分と疑うじゃないの」
「ボクはアリスの言葉ならなんだって信じているよ?」
「嘘ばっかり……」
「まぁ、いいや。とにかく君達が無事でよかったよ。陛下にはしっかりと伝えておくね」
グレイは暖かい紅茶でクッキーを流し込み、席を立った。
「シエル・ファントムハイヴは?」
「客間で休んでもらっているわ」
「貧弱だね、アリスを見習ってほしいものだ」
「二つ歳が違うんだから、一緒にしたらダメよ」
「随分彼と仲良くなったみたいだね? アリス」
グレイが怪しい瞳で彼女を捉え、そっと頬を撫でた
「君はボクだけのモノだよ? 忘れないで」
「忘れました、今」
乾いた音が響く。
グレイは、彼女の頬を躊躇うことなく叩いていた。
「君の執事が席を外してくれてよかったよ、じゃないと煩いもんね。君を傷つけると」
「っ……」
「君は、ボクだけの"玩具"なんだから。勝手に死んだりしないでね? それだけ」
窓から優雅にグレイは飛び出していった。相変わらず、玄関から出て行ってくれない人だと心の中で溜息をつきながら、アリスは赤くなった頬を押さえた。
「姫様!!」
すぐさま扉を開けてやってきたのは、クライヴ。手には濡れたタオルを持っていた。