第10章 花束
「もし、生き返ることがあったとしても……それは……"同じもの"とは言えない」
その言葉の意味を、ただアリスは心の中へと落とした。
エレベーターは止まる。扉が開いたと同時に、人々の断末魔が襲い掛かる。目の前に広がる地獄絵図に、一人は嘔吐し一人は恐怖で隅っこで震え出した。
「私は……間違ってなどいない!!!」
「!! リアンっ!?」
リアンは一目散にエレベーターを飛び出した。
「やめろぉおおおおおおおッ!!!」
シエルの叫びと共に、一台の馬車がリアンを撥ねた。
飛び散る赤、スローモーションのような一コマ。
従業員たちもリアンが"死"を迎えた恐怖から混乱し、次々とエレベーターを出ていく。それを追いかけようとするアリスと、シエルは後ろからぎゅっと抱きしめ引き留める。
「シエル!! 離してっ! 離してよっ!!」
「今ここを出ればあの化け物馬車の餌食になる!!」
一人、また一人と馬車に撥ねられていく人々。
「あの人達を助けないと……っ!!」
「やめてくれアリス!!」
「シエ……ル……?」
「ちゃんと、頭で考えるんだ……この状況を。僕達が出来ることは、限られている。今、僕達が出来ることは……生きて"二人"でこの船を脱出することだ」
「でも……っ!!」
「浸水しているということは、遅かれ早かれこの船は沈む。一通り生きている乗客達の非難が完了すれば、セバスチャン達と合流できるだろう。それまで……持ちこたえるんだ」
「でも!!」
ゆらりと、化け物達がアリス達へと向かい始める。それに気付いたシエルは、咄嗟に銃を持ち応戦する。