第10章 花束
飛び込んだ先は、エレベーター。どうやら、動いているようだ……全員乗り込むと、上向かってボタンを押した。浮上するエレベーターのお陰で、なんとか一先ず水の脅威を退いたのだった。
「リアン、何故こんなことをしたの……」
「君達みたいな子には、わからないだろうね。大人になるってことは、常に不健康と隣り合わせさ。病気、疲労、歳を取るごとに治らなくなっていく病気。不健康であることは恐怖だ! それは不幸だ!!」
「だから……生き返らせようとしたのね?」
静かに、エレベーターの中に響く凛と澄んだ声。誰もが、黙って彼女達の会話に耳を傾けた。
「それの何が悪い!? 私は彼女を、死という恐怖から救ってあげたんだぞ!」
「その結果がこれだ!! あんたのつまらない信念の為に、ここに乗り合わせた何千人もの人間の命が死を迎えた!!! 貴方のいう最大の不幸である、不健康へと突き落とされたのよっ!!」
「……っ」
「人はいずれ死ぬ! 大人も子供も関係なく、いずれ死ぬのよ!! それが遅いか早いかの違いだけ! 人間誰しも死という運命からは逃れられない! 生まれ落ちたその瞬間から、人は死を背負って生を受け入れているのよっ!!!」
リアンの胸倉を掴み、アリスは声を荒げた。彼は目を伏せ「煩い……黙れ……」と繰り返すだけだった。
「人が生き返ることはない、失ったものは……もう二度と返らない」
「……シエル?」
そっと、シエルはアリスの肩を抱いた。