第10章 花束
「姫様っ! 大丈夫ですか!?」
「はぁ、はぁ……大丈夫、よ……」
クライヴに支えられ、倒れ込むことなく辛うじてアリスは息を吐き、立ち尽くしていた。
「それにしても、シエル……どうして、ここに?」
「騒ぎにこぎつけて、監禁されていた部屋を出た。昇降口からな」
彼が頭上を指させば、蓋が開いた昇降口が見えた。
「たまたま私の目の前に降りてきたってわけね」
「好都合だったと言える、それに……レディを危険な目に遭わせてしまった。すまなかった」
シエルはさりげなく、アリスの頬に飛び散った血を拭った。その行為に、彼女は目を伏せた。
「ラビットファミリーのことだが……おそらくこの化け物を見ればわかることだ。もう、生きてはいないだろう」
「どういうこと……?」
「昇降口を通っている間、沢山の悲鳴が聞こえた。船内はパニック状態だ」
「それでよく、生きてここまでこれたわね……」
「そうだな……そこにいた人々が、身代わりになったのかもしれない……」
これ以上、言葉にしたくもないと言わんばかりに、シエルは目を逸らした。
「とにかく、僕達も早く脱出しよう」
「坊ちゃん。動力室の入口はどうやら、囲まれているようです……このまま先を急ぐと致しませんか?」
「リアン、だったな。奴を追おう、奴もラビットファミリーに関係している可能性が高い」
「そうと決まれば……行きましょう」
四人は血の海を走り抜け、リアンが逃げたと思われる動力室の奥へと向かうこととなった。
遠くで男の断末魔のようなものが聞こえる。急がなくては、無意識にアリスはそう思うのだった。随分開けた場所に出て着た頃、腕を一本なくしたリアンが化け物達に襲われている光景が飛び込んできた。