第10章 花束
響く銃声、銃口から上がる煙は、アリスのものではなかった。
「何を遊んでいる? セバスチャン」
「……! 坊ちゃん!?」
アリスを庇うように、目の前に現れたシエルの姿がそこにあった。彼の手には拳銃が握られており、その銃口からは発砲特有の煙が上がっていた。その場にいた誰もが、シエルに目を奪われている。しかし、活動を続ける化け物達に動きを止める意思など存在しない。
アリスはすぐに体制を建て直し、銃を握り直す。
響く銃声の嵐、震える銃、反動で歪む彼女の美しい顔。
「何をしているっ!! 早く奴らを殲滅しろセバスチャンっ!!!」
「イエス・マイロード」
悪夢の一夜。全身に血を浴びようとも、臆することなくアリスもシエルもこの現実と対維持する。あと何人? どれだけ殺せば終わる?
「くっ……、胴体に当たるだけじゃ怯むだけよ!! シエル、頭部を狙いなさい!!」
「わかっている!! アリスも外すんじゃないぞっ!」
「外した先に待ってるのは、死よ!!」
漆黒の二人の執事は、舞う。主人を守りながらおびただしい量の死体を積み上げて。セバスチャンの鮮やかな赤い瞳、クライヴの血に染まった漆黒の長い髪も、全てが血みどろに彩られ、血なのか瞳の色なのかわからなくなっていく。
これが嘘であれば、どれだけよかったか……。
嵐は去った。全てが終わる頃、彼らは未だ立っている。自らの足で、震わせながらも。