第8章 駒鳥
「どうかいたしましたか? 姫様」
「いや……そんなことを思う人もいるのね、と……思っただけよ」
手元にあるアップル・クランブルを見つめ、スプーンで掬い上げると一口食べてみる。林檎の酸味とクランブルのサクサクした甘みが口の中に広がり、素直に美味しいと思うのだった。
「姫様、今のうちにあの警備の堅い部屋を調べてみるのはいかがでしょうか?」
「とは言っても……どうやってあの中に」
「あれぇ? アリス嬢?」
「……アロイス・トランシー?」
アロイスと呼ばれた少年は、アリスを視界に入れると勢いよく嬉しそうに駆け寄ってくる。その背後には、漆黒の執事を連れて。
「嘘みたい! こんなところでアリスに会えるなんて!」
「後ろにいるのは?」
「忘れちゃったの? 僕の執事のクロード・フォースタスだよ。ほらクロードもご挨拶!」
「お久しぶりで御座います、アリス様」
「ちゃんと覚えているわよ、ただのジョーク。二人共元気そうね」
セバスチャンがそっと、アリスへと耳打ちをした。
「アリス様、この方々は?」
「名家トランシー家の養子でありながら、若くしてトランシー家当主に君臨した女王の蜘蛛。アロイス・トランシーと執事のクロードよ」
「はぁ……女王の、ということは彼らも悪の貴族だと?」
「ええ、そうよ。セバスチャン達は顔見知りではないの?」
「いえ……実のところ、名前は以前お伺いしていたのですが実際会うのは初めてです」
「ああ、そうなの。まぁ、ファントムハイヴ家とトランシー家は役割的に関わることがなさそうだしね」
「アリス様はどうして彼らと?」
「以前、一緒に仕事を……」
アロイスはセバスチャンに目を向けるが、興味がなさそうにすぐさまアリスへと視線を戻す。