第8章 駒鳥
「姫様、太陽の光はお体に触ります」
「……そうね」
そこにいた誰もが、彼女の異様な容姿に目を奪われていた。白銀の髪、赤い瞳、雪のように白い肌。久しぶりに多くの人の前に出たアリスだったが、いつものことかと心の中では思いながらも早く人のいない場所へ立ち去りたくて仕方なかった。
ふと、セバスチャンがアリス達の元へ戻ってきた。
「どうだった? セバスチャン」
「ええ……まぁ、だいたいの船内地図は把握しました。ああ、そういえば……どうぞこれを」
セバスチャンが、大きい白い帽子をアリス被せた。帽子のお陰で、ぼんやりと影が出来る。遮られた太陽と、人々の視線。
「あまり可愛らしいお姿を、人の目につけないで頂きたいものですね。ああ、早く済ませて帰りましょう」
アリスは、ぎゅっと帽子を掴むと「そうね」と呟いて船内へと戻っていく。彼女の頬は、ほんのり桃色に染まっていた。
三人が会場に入ると、美しい音楽と共にパーティーは幕を開けていた。
「アリス嬢!」
「うっ、ドルイット子爵……何か用かしら?」
「先程は君の機嫌を損ねてしまったみたいで、申し訳ない。良ければこれを貰ってくれないかな?」
「……アップル・クランブル?」
「デザートで君が許してくれるとは思わないが……とても美味しいよ」
申し訳なさそうに、イギリス伝統のデザート「アップル・クランブル」を手にアリスへとドルイットは笑いかける。彼の顔をしっかりと見る為に、帽子を取りクライヴへと預ける。ドルイットはいつものお調子者な雰囲気を伏せていた。