第8章 駒鳥
「これで一通りのご案内は済みました」
「ロバートさん、あの警備が厳重に施されている部屋はなんです?」
「あ……えっと、あそこは。VIP室になるんです」
「VIP室……?」
「会員制でして、合言葉がないとあの遊戯室に入れないのです」
「へぇ……なるほどね」
ロバートは会釈し「それでは」と一言残し、アリス達の元を離れた。VIP室をじっと見つめて、彼女は一旦パーティー会場へと戻るのだった。
会場は既に賑わっており、楽しげな声が満ちる。
「姫様、いかがいたしますか?」
「とりあえず船が出るまで待ちましょう」
大きな音がする、船が出る直前の合図だ。アリスも他の者達に習うように、甲板に姿を現す。誰も見送りなどいないけれど、そう思って視線を泳がせていると、一際異彩を放つ人物へと視線が留まった。
「……グレイ?」
「グレイ様がいらっしゃるのですか?」
見送りをする者達に混ざって、物凄い笑顔でアリスへ手を振るグレイの姿がそこにあった。あれは何をしているのか……一瞬嫌な予感を感じるアリスだったが、とりあえず手を振り返せば更にいい笑顔で返される。
――これが心からの笑顔なら、可愛いものなのにね。
遠くなる彼の気持ちの悪い程の、満面の笑みに見送られ、ホワイトマーメイドは無事出航する。潮風が頬を撫で、澄んだ青空が広がる。