第2章 帳
「ふぅ……さて、どうしたものか」
セバスチャンの瞳が翳りながら、赤く煌めく。誰にも悟られぬようにと、静かにとある部屋へと入る。そこにあったのは、見慣れない木箱。セバスチャンがそれを開けると、そこにあったのは金色の大きな宝石がついた指輪だった。
「アリス様。こんなにも早く、貴女にお会いできる日が来ようとは……これは、坊ちゃんに感謝しなくてはいけませんね」
木箱の蓋を閉じ、大事に懐へと入れる。満足そうな表情を浮かべ、セバスチャンは部屋を出た。
「あれ? セバスチャンさん、こんなところで何してるだ?」
「メイリンですか。いえ、別に何もしていないですよ。それより、仕事はどうしたのですか?」
「うっ……こ、これからなんですたいっ!」
「そうですか。しっかりと、お仕事なさって下さいね。私達はこれから用事がありますから」
「わかっただよっ!」
メイリンと呼ばれたメイドは、派手にひびの入った眼鏡をかけ直して、頬を少し赤く染めながらセバスチャンと向き合う。彼が一度微笑めば、慌てた様子で仕事場へと駆けて行った。
「まったく、いつも廊下は走らないで下さいと言っているんですがねぇ」
相変わらずのメイドに、彼は溜息を吐いた。特別問題はないと言った様子で、すぐに外出の支度に取りかかる。その胸の内に、確かな燃えるような想いを抱きながら。
アリスの屋敷では、メイドが忙しなく屋敷の掃除に取り掛かっていた。