第2章 帳
「本日は、アッサムをご用意致しました。シンプルにハーブティーも良いかと思ったのですが、今の坊ちゃんにはこちらの方が気に入って頂けるかと」
「セバスチャン。僕達の目的は、何一つ変わらない。会ってみたくはないか? アリス・ヴァインツに」
「会ってどうなさるおつもりですか?」
「少し様子を見たい。もし……女王に背くようなら。その時は……」
「……わかっております」
シエルは少し気が乗らなかったが、自らがすべきことを思い返す。彼がすべきことは、常に女王の憂いを晴らすこと。その為なら、どんな闇も呑み込む覚悟で生を受け続けている。けれど、それはけして純粋な心から来る覚悟ではない。
彼の蒼い瞳が、紅茶の水面に映りで揺らいだ。
「支度をしろ」
「いきなりお尋ねするのですか?」
「そんな不躾なことをすると思うか? 既に文を届けてある。返事を待つまでもない」
「坊ちゃまらしくありませんね」
「僕らしいとはなんだ?」
カップに口をつけ、シエルはセバスチャンを一瞥する。セバスチャンはくすっと笑うと、懐中時計を取り出し時刻を確認した。
「そうですね……普段でしたら、少なくともお返事を頂いてからお尋ねすると思いますよ? よっぽど、彼女にお会いしたいのですね」
「……何が言いたい?」
「いえ。ご興味でも、あるのかと思いまして」
「それはお前の方じゃないのか?」
「とんでもないです」
セバスチャンは「では、支度がありますので」と断りを入れシエルの部屋を出た。