第8章 駒鳥
人々の視線を一身に集めながら、アリスはクライヴとセバスチャンを連れ豪華客船乗り場に辿り着いていた。
「これはこれは! アリス・ヴァインツ嬢ではないかっ!」
「げっ……ドルイット子爵。お久しぶりね」
「君ともあろう方が、このような場にお見えになるなんて奇跡じゃないかっ!!」
「そ、そうかしら……? 今回はホワイトマーメイド初の出航記念日。こんな素敵な日に、我が伝統あるヴァインツ家の当主ともあろう者が、祝いに来なくてどうします」
「ふふっ、君は人混みが嫌いだと以前私に言ったじゃないか」
「(ああ、言った言った。何故覚えているのかしら)」
アリスは無意識に背筋がぞくっとする感覚を覚えた。
「でもこうして人々の前に姿を現したということは……私に会いたかったということかっ!!!」
「……はい?」
アリスの表情と、その場にいたクライヴとセバスチャンの表情さえもぴしっと凍り付いた。何か、物凄く見てはいけないものでも見たかのような。絶望に染まりながら。
「言わずとも私は全てわかっているよっ!! 君と初めて出会ったあの社交界の頃から! 幼い君はヴァインツ伯爵と伯爵夫人に連れられ、まるで愛らしい駒鳥のような澄んだ瞳で……」
「ドルイット子爵」
「ん?」
「昔の話は忘れましたわ。もういいでしょう? また後で、ゆっくりお話ししましょう」
ドルイットは一人きょとんとしていたが、彼の横を通り過ぎるアリスは酷く怖い表情を浮かべていた。クライヴは彼に軽く会釈して、すぐアリスの元へ寄り添うよう。