第7章 境界
「代々受け継がれてきた魔銃、ブラッディローズ。小生はいつも思うけど、アリス嬢には華麗に剣が似合うと思うんだけどねぇ」
「ヴァインツ家は最早私一人、この銃を使いこなせるのはヴァインツ家の人間のみ。当主たる者、これくらい使いこなせなくてどうするの?」
これを誰よりも使いこなせる自信なら大いにある。だから不安も何もない、アンダーテイカーのいうことも勿論一理あるのは理解している。心の中だけで、理解を示しておくとしよう。
「まぁ、小生はどっちでもいいけどね。それより、何処までお出かけだい?」
「ホワイトマーメイドに関する情報も聞きたいのだけど」
「……ああ、あの豪華客船のか。それがどうかしたのかい?」
「招待されたの。何か黒い噂を知らない?」
「……そうだねぇ。小生が知る限りでは、特には」
「ならいいわ」
用事は済んだ。踵を返せば「アリス嬢」ともう一度私を引き留めるアンダーテイカーの声。
「なぁに?」
「君はもう少し、自分の価値を知るといい。君が思っている以上に、君の魂は、存在は、とても貴重なものだよ」
「……忘れたわ、自分の価値なんて」
自分を大事にすることも、愛することさえ知らない。必要ない物でしょ? 誰も愛さないのなら、大事にしないのなら、自分を愛することも大事にすることも必要ないわ。
店を後にし、その足で馬車へと。向かうは豪華客船、ホワイトマーメイド。ぎゅっと握りしめたアタッシュケースに、思いの外力がこもる。
「姫様………」
そっと、力の籠る手にクライヴの手が重なる。はっと、我に返った。
「クライヴ?」
「私は貴女の忠実な下僕。何を、恐れる必要がありますか」
隣にいてくれるクライヴの存在は、私に静かな安心感を与えてくれる。信頼感? そんなものと一緒にされては困るのだけど。
「本当に、随分仲がいいのですね。主人と執事であるというのに」
「……! クライヴ、は、離して」
「はい」
くすくすと笑うセバスチャンもついでに乗せて、港が見えた。