第7章 境界
「もう貴女が、私の主人になることはないでしょう。それが互いの為では?」
「私の願いが尽きれば、セバスチャンの顔を二度と見なくて済むわね。清々するじゃないの」
この小憎たらしい男が、私が死ぬことでもし喜ぶのなら意地でも生き延びてやりたい気持ちが起きるけど……そういうわけにもいかない。
「自己犠牲は美徳ですか?」
「なんですって?」
「誰も一人にしない為の力を手に入れて、貴女は満足なのですか?」
「救うわけじゃない」
「それでも……、貴女のその力を女王陛下が目をつけていることをご存じなのですか?」
「……グレイが目をつけているのだから、当然でしょうね」
グレイにつけられたはずの肩に手を伸ばす。傷痕はなく、痛みも既にない。何もかも元通りの身体を確かめて、無意識に眉間に皺が寄る。目ざとくそこを見ていたセバスチャンは、私の頬を両手で包み込んだ。
逸らせないように、視線を留めるように。
「……っ、貴女という人は! 私が何故契約を解いたのかもわかっていない!!」
「裏切り者の言葉なんて聞きたくない!!」
「私はただ貴女のことを……っ!!」
「煩い煩い煩いっ!!」
聞きたくない、聞きたくない、聞きたくないっ!!
セバスチャンが今更、どんな言葉を私に与えようと関係ない。捨てられた事実は変わらない、お前が私を裏切ったことは何も変わらないじゃない! 今更言い訳を重ねても、もう二度と私の元に帰ることもないのなら……っ。そんな戯言、聞きたくない。