第7章 境界
「……アリスっ」
「や、やめ……っ!」
がっと身体を押し倒され、彼の手が私のスカートを捲し上げると、太腿へ滑らせ見たくない現実を曝け出す。
私の太腿に刻まれた、契約の証が月明かりに照らされくっきりと視界に入る。
「どうせ悪魔はアリスの心なんてどうでもいいんですっ! なのに、悪魔に裏切られておきながらまた悪魔と契約など……っ、どういうつもりですか!!?」
「どういうつもり? それはこっちの台詞よ!! 私を捨てて、違う人間と契約するなんてどういうつもりなのよ!! もう二度と顔なんて、見せてくれなくてよかったのに! 私の人生から視界から消えてよっ!!」
探していた。その瞳を、私と同じ血の瞳をした悪魔を。
裏切られたとわかっても、捨てられたのだとわかっていても、私は探していた。ああ、嘘つき嘘つき嘘つき。捨てた癖に、いらなくなった癖に。なんで……こうして、触れるの?
ぎゅっと優しく抱きしめられて、意識は混濁する。
知っている背中、知っているぬくもり、知っている彼の甘い香り。
忘れてしまいたかった。塗り潰したかった。
「アリス……」
その声で呼ばないで。
「貴女には……」
優しい言葉を、かけないで。
「幸せに、なってほしかっただけなのに……」
放っておいてよ。
「どうして、なんです……」
初めて、彼の涙交じりの声を聞いた気がした。ああでもこれは錯覚よ。だって、あの下衆で性悪な悪魔が、泣くわけないじゃない?