第7章 境界
夢を見た。あの日の夢を。思い出すのも嫌な夢……悪夢など見れない方がずっといい、それが一番いい。そうしてくれた方が、私がこうして寝苦しい夜を過ごす必要もないのだから。
「……目が、覚めた」
あの襲撃の後、一通りの屋敷の確認と片づけを終え、私は自室で休んだ。クライヴの優しい手に撫でられ、睡魔に誘われるがままに眠りについたのを覚えている。
喉が渇いた。
ベッドから抜け出し、部屋の扉を開けた。
「おや? アリス様はこれからどちらへ?」
「……セバスチャン」
嫌な奴の顔が見えた。さて、ここで回れ右が妥当かしら? しかし、彼が手にしていたものを目にして、溜息と共に部屋の中へと寧ろ招き入れた。
「アリス様が魘されていないかと、心配になりまして。定期的に水を持って徘徊しておりました」
「悪趣味なの? それともそういう生き方を強いられているの?」
「とんでもございません。さあ、喉が渇いたでしょう。どうぞ」
こぽこぽとグラスに注がれる水。渡されたグラスを受け取って、水を飲み干した。適度な冷たさ、喉に通る冷たい感覚にほっと息を吐く。ヴァインツ家当主ともあろう者が、悪夢で魘されて起きただなんて、かっこ悪くて仕方ない。