第6章 仮面
「一つ、彼女の願いを叶える為に執事になること。二つ、女王に与えられた任務内容以外で彼女以外の人間の命は保証しないこと。ケースバイケースという言葉がありますが、あまり当てはまりませんね……私の場合は」
「それでも、執事ですか?」
「私は"悪魔"で執事です。それにこれは、姫様も了承済みです。だからこそ、うちの使用人は簡単に死なない程度の人間を雇っているんですよ」
「そのようですね」
セバスチャンが懐中時計を確認して、クライヴを見た。相変わらず怖い顔を向けているなと密かに思いながらも、セバスチャンは今まで思っていたことを彼に投げかけてみた。
「貴方はまるで執事ではなく、騎士のようですね。姫様と呼ぶ辺りが、また」
「……"僕"は、あくまで執事の皮を被った……悪魔です」
「貴方がその皮を脱ぐ時は来ないでしょうね。貴方は私ほど、完璧ではないけれど……執事である以上、きっちりとお仕事をこなさなくては駄目ですよ?」
「先輩みたいに言わないで頂きたい。僕は、貴方と違って執事にたいした拘りもないのだから」
「それでも在り続けるのでしょう? 彼女が、望む限り」
クライヴは綺麗なアメジストの瞳を曇らせ、目を伏せた。けれど再び顔を上げ、堂々とセバスチャンへと言い放つ。
「僕は、姫様が望むならその通りの執事を演じて見せます。けれど、僕は彼女以外の人間の命に興味なんてないし、彼女以外の魂なんていらない……いらないんです」
「悪魔が人間に心酔ですか? これはこれは、滑稽なことですね」
「煩いよ、セバスチャンさん」
「ほらほら、執事たるもの言葉遣いに気をつけなさい。崩れてますよ、執事の言葉遣いが」
「……姫様が寝ている間は、いいんだよ」
「……ガキ、ですね」
二人の執事の静かな攻防など露知らず、アリスは深い深い眠りへと落ちて行った。