第2章 帳
「ほぉ……ヴァインツ家、ですか」
「女王が密かに目を配っていた貴族らしい。今まで僕でさえ、知りえなかった貴族だ。女王の眼として、僕らの目の届かない場所で仕事をしているらしいが……」
「しかし、その貴族がどうかしたのですか?」
「最近妙な動きが見えると女王からお達しがきた」
「なるほど。書類によると女王の命を、何度か無視しているのですね……どういうことでしょうね? 悪の貴族にとって、女王陛下の憂いを晴らすのは絶対、なのでは?」
シエルはセバスチャンから紙を奪い取り、もう一度目を通す。そこに記された名前である『アリス・ヴァインツ』という文字を見つめた。同時に、添付されていた写真にも目を向けた。
人間しては異端、白銀の髪に血のように赤い瞳。
「珍しいな。アルビノ……か」
「とても綺麗なお方ですね。とても」
「どうした? セバスチャンにしては珍しいな、ただの人間に興味でも持ったか?」
「いいえ……ただ」
セバスチャンは、少女の姿をその瞳に映して、嬉しそうに笑む。
「少々、見覚えのあるお顔立ちな気がしただけです」
セバスチャンの笑みが、何を意味しているのか、訝しげに見つめるシエルではあったが、意図を理解することは今はまだ出来そうにない。
シエルに聞こえぬよう、小さくセバスチャンは呟いた。
「お懐かしい人ですね。アリス様……」
記憶の片隅に眠る、彼と彼女の物語。セバスチャンは手近にあった台車に乗る、美しいティーセットを手にすると、シエルの机に並べた。