第6章 仮面
「姫様は、あの人への警戒心が一番低いです。いいですか? あの人は、貴女を傷つけることに快楽を得て満たされているような人です。あまり、隙を見せないで下さい。こう何度も生傷を作られては困ります」
「体質で傷痕が残らないんだから、気にしなくていいじゃないの。あんな変態、放っておけばいいのよ。そうやって構うから、来る」
「そのお言葉、そっくりそのままお返ししますね」
部屋へ着くと、ゆっくりと彼女をクライヴはベッドへ下ろした。素早くアリスを寝間着に着替えさせるとそっと布団をかけ、優しく頭を撫でる。
「クライヴ……」
「今は、少しでも長くお休みください。全ては、目が覚めてから」
アリスはゆっくりと瞳を閉じた。暖かい手の感触を覚えながら、安心しきった顔で眠りにつき始める。彼女が眠りについた頃、灯りを消した彼は部屋を出た。
「クライヴさん、アリス様は?」
「もう寝ましたよ。何か用ですか?」
「ええ……血の匂いがしたので、何かあったかのかと」
「御心配なく。私がきっちりと介抱しましたので、貴方の出る幕はありませんよ」
「厄介ですね……同じ、悪魔というだけで」
「魂を横取りされたくならいからでしょう」
互いの赤い視線が絡み合う。
「もし、私とセバスチャンさんに違いがあるとするなら、私は主人以外の人間の身の安全を、保証しないところ」
「主人の命令であっても?」
「私が姫様と約束したことはただ二つ」
クライヴの赤い瞳はゆらゆら揺らめいて、セバスチャンを射抜く。