第6章 仮面
「姫様!? 姫様っ、一体誰に!?」
「……包帯を」
「わかりました。すぐに手当てを致します」
何も言わないアリスに、ただクライヴは悔しさだけを募らせていた。彼にも、ある程度誰がこんなことをしたのか見当はついていた。そうだとしても、彼女に確かめずにはいられなかった。彼女の口から、犯人の名を聞きたかったからだ。
アリスが答えない理由など、彼にはわからなかった。
「痛みますか? もう、終わります」
「……っ、早く済ませて頂戴」
痛みで顔を歪ませながら、クライヴが包帯を巻くのを黙って見守る。
「終わりました。部屋へ戻りましょう、屋敷のネズミは全て駆除が終わりました」
「ご苦労様。セバスチャンは?」
「さあ? 私には、わかりませんよ。あの男の行動など」
「眠い……」
「結構血を流しましたからね」
アリスを抱き上げると、クライヴは静かに彼女の部屋へと向かう。静かな廊下に響くのは、彼の足音だけ。いつも通りの屋敷の空気に、アリスは少しだけほっとする。それもそのはず、なんだかんだで伯爵がいるという緊張感と前触れなく訪れた襲撃。
神経を研ぎ澄まし、張りつめたいた心がようやく解放された瞬間だった。肩が痛むのを置いておけば、落ち着いたと言える。痛みを感じながら、グレイの顔をアリスは思い浮かべた。
女王の執事、そして秘書官でもある彼、チャールズ・グレイ。度々、視察だと言ってヴァインツ家を訪れては何かと攻撃的な挨拶と土産をアリスにだけ置いていく。何度か生傷を食らわされている彼女だったが、次第に慣れ始めている自分に気付く。