第6章 仮面
「っ……!!?」
「声にならないくらい痛い? 痛いよね、そりゃそうだよね。だって、ボクどうしたら君にずっと忘れないでいてもらえるか考えるの大変なんだもん。ほら、痛みは簡単に忘れないでしょ? 傷痕があれば……君はボクを忘れたくても忘れられない。そうでしょ?」
「やめ……っ」
「ふふっ」
剣を引き抜くと、グレイは優しくアリスを抱きしめた。
「でも、君の傷はすぐに跡形もなく癒えてしまうね。どうしてかな?」
「知ったこっちゃないわ……っ!」
「陛下の命令だ。ラビットファミリーを根絶やしにしろ、手段は問わない。一人残らず、だ。以上」
「それは、どうも」
「君が陛下に目をかけてもらえてるのは、ボクの口添えがあるからだよ? 忘れないでね、この雌豚」
耳元に唇を寄せ、ねっとりと舐めるグレイ。アリスの背に、言い知れぬ悪寒が走った。彼女の反応を見ると、グレイはまたくすくす笑い始めた。
「いつかボクの手で、君に消えない傷をつけてやるから。身体も心も、壊して壊して壊し尽して……そしたら、アリスをボクの花嫁にしてあげるね?」
「満面の笑みで言ってんじゃないわよ気持ち悪い、お断りするわ」
「ああ、ボクを嫌がる君のその歪んだ顔、最高。それじゃあ、陛下の命は伝えたから。伯爵に宜しく」
何事もなかったかのようにグレイはアリスから退くと、開けっ放しの窓から飛び降りて行った。
「もう……嫌」
血が溢れ出す肩をぎゅっと掴んで、唇を噛んだ。
「クライヴ、来て」
力なくそう呟くと、風のようにクライヴが再び部屋へ戻ってきた。しかし、彼女の光景を目の当たりにした瞬間、クライヴは焦りの色を見せる。