第4章 襲撃
「ぐっ……ぐあああああああっ! 痛い、痛いぃいいいっ!!」
「申し訳ありません、アリス様。出過ぎた真似を、お許しください」
「セバスチャン……?」
彼女が見た物は、男の切り離された腕と、セバスチャンの背中。男は苦し悶え、床に転がりのたうち回っていた。
「無様ですねぇ……本当に。ネズミが、アリス様に指一本触れられるわけがないでしょう?」
「セバスチャ……っ」
セバスチャンは、アリスの言葉を聞きながして、そのしなやかな足で躊躇うことなく力いっぱい、男の頭を踏み潰した。ぐちゃりと気持ちの悪い音と共に、男の悲鳴は止んだ。
「どうして……」
「私は、アリス様を失うわけにはいかないのです。ご理解下さい」
「伯爵は!?」
「坊ちゃんなら、安全にあの部屋に待機して頂いてますよ。まったく……貴女も、最前線に立つだけが能ではないのですよ?」
「玉座に座っているだけが、キングだと思っているならそれは間違いね。自ら重い腰を上げなくては、駒は動かないのよ。知ってた?」
「ふふ。坊ちゃんよりかは、少しは人間というものを理解していそうな発言で、大変素晴らしいと思います」
セバスチャンは、座り込んでいたアリスへと手を差し伸べた。不敵な笑みを浮かべ、彼女はその手を取るのだった。
「さて、ゲームはまだ始まったばかりなのでしょう? お供いたします」
「きびだんごはないわよ」
「日本の伝統的おとぎ話、桃太郎ですね? 生憎、私は動物ではありませんので」
「悪魔、でしょ?」
「ええ……"悪魔"で、執事ですから」
彼に手を引かれ、アリスは部屋を飛び出した。