第4章 襲撃
「どうかしましたか? いえ、このような聞き方はわざとらしいですね……また、思い出していたのですか?」
「……何の話」
「昔の、ことです。アリス様は、私といた頃からよく……夜になるとご家族が亡くなられた時のことを思い出しては、憂鬱そうなお顔をしておられました」
「そんなこともあったかもしれないわね」
「いえ、今の貴女はその時と同じ表情をしています」
セバスチャンは彼女の頬に手を伸ばし、手袋越しに触れる。まるで、壊れ物に触れるかのように。
「貴女の痛みも快楽も、私に捧げて下さるとあの時は言ってくれたのに……結局、貴女も私を裏切るだけのただのガキ同然でした」
「煩いわね……今更そんなこと、どうだっていいでしょう」
「人間如きが、私を裏切るなど……。だから捨てられたのだということにも、気付いておられなかったのですか? 本当に貴女は、坊ちゃん以上に愚かですね」
「……触らないでっ」
乾いた音と共に、アリスは彼の手を振り払った。それでも彼は、彼女に触れようともう一度手を伸ばす。アリスにはそれが、いつかの姿と重なって見えて気分が悪く思えた。
「やめてってば! もう貴方は私の執事じゃないっ! 気安く私に、触れないでっ」
「愚かで脆弱なアリス様。それでも、自分で選ぶ強さを手にしたのでしょう? 拒絶することさえ……あの頃の貴女は出来なかったのだから」
「用件は何? さっさと終わらせてくれない?」
「せっかちですね。用件を申し上げさせて頂きますと、出来ればもう遅い時間帯ですしお屋敷に一泊させて頂きたいのですが」
「……それなら、暫くここに滞在するといいわ。貴方達も、知りたいことがあるのでしょう?」
アリスが嫌そうにセバスチャンを見れば、不敵に笑みを浮かべるだけ。