第3章 一夜
「まずは我がシェフ自慢のアボカドのカプレーゼ」
テーブルに並べられたのは、色鮮やかな緑と白と赤のコントラスト。
「ほぉ、アボカドか……」
「伯爵はお嫌いかしら?」
「いいや。アボカドのカプレーゼが初めてだったもので、つい関心しまして」
「そうでしたか。美味しいですよ」
次々と料理はフルコース式で運ばれてくる。相変わらずメイドは二人だけの様子で、その他の使用人がいないことには少々驚いたシエルだったものの、自らの屋敷も似たようなものかと最早気にする要素ではなくなっていた。
「次は僭越ながら、クライヴ自らが振る舞わせて頂くメインディッシュ。ビーフステーキ スティルトンチーズのせ。スティルトンチーズのコクを活かす為、敢えて脂身の多いステーキ肉ではなく赤身を使用しました」
「……美味しい。ヴァインツ家でも執事自ら厨房に立つこともあるのですね」
「ええ、勿論。うちの執事に出来ないことはありませんので」
ビーフステーキにナイフを入れ始めるアリスを見つめながら、シエルはクライヴへと視線を向けた。ただ彼は微笑むだけで、シエルはすぐに視線を外した。
「では最後に、ファントムハイヴ家自慢のデザート。ルバーブとストロベリーのトライフルをご用意してみました」
「あら、綺麗……素敵ね」
「是非、アリス様に私自慢のデザートを振る舞わせて頂きたく、失礼ながら厨房をお借りしました。厨房も素晴らしいですね、見習いたいくらいでした」
「厨房はシェフに一任しているので、私はあまり手を加えていないのよ」
アリスの前にデザートを置いたセバスチャンは、何故かスプーンを取り一口分掬い上げるとにっこり笑みを浮かべ彼女の口元へ運んだ。