第26章 愛欲
「でも、契約を切るって言われた時……ドラッグで苦しくて熱くて意識が飛びそうで、それ以上に貴方のその言葉が痛かった。苦しかった……! やっぱりこいつは悪魔だったんだ!! 私のことなんて、何とも思ってなかったんだって!!」
アリスは、自らセバスチャンへと手を伸ばした。
彼の綺麗な頬へ、触れて。
「……忘れてしまおうと思った。クライヴと契約して、私を捨てたことを後悔させてやるって……! でも、それってさ……本当に大切だったから、どうしても私は許せなかったってことなんだよね。再会して、あの時とは違う貴方を見て……苛立ちと憎しみと、同時に……シエルに嫉妬した」
セバスチャンは、目を見開いた。
「なんで、私じゃない奴の隣にいるんだって……妬いた」
そう言って笑うアリスに、つられるようにセバスチャンも笑う。まるで二人は、掛け違いながらすれ違いなら、傷つけ合いそれでも求め合って……今、重なり合ったように思えた。
「そこで気付いた。ああ……私はセバスチャンが”好き”なんだって」
「アリス……っ」
セバスチャンが強く、アリスを抱きしめる。今度こそ、アリスは応えるように腕をしっかりと回した。互いのぬくもりが重なり合って、もう迷いがないようだ。
「他の何を奪ってでも、私はアリスを愛しています」
「他の何を奪われても、私は……セバスチャンを愛してる」
アリスの涙を拭って、セバスチャンは今までで一番、優しく彼女にキスをした。何度も角度を変えて、互いの酸素を奪い合いながら。
悪魔と人間。互いにまったく違う生き物でありながら、惹かれ合う。それがどれだけ愚かなことなのか、どれだけくだらないことなのか。
誰かを好きになることは、ある意味一種の恐怖だ。
好きだという感情を受け入れる必要がある。認める必要がある。その勇気の先にあるのは、きっと確かな愛の形。