第26章 愛欲
「アリスを、愛せるのに」
アリスの瞳が、蝋燭のようにゆらゆらと揺れる。
「そんなこと、急に言われても……私は……だって、セバスチャンは私が嫌いだから、だから……」
「すみません。どう、貴女を大切にすればいいのか……わかりませんでした」
「私のことを残酷に裏切って、再会した今は再び悪魔と契約した私を、愚か者だと嘲笑っていたんじゃ……」
「ただの、嫉妬ですよ」
「嫉妬? 何に……よ」
「クライヴさんに、ですよ」
そんなこと、信じられない。
アリスの心の中でのセバスチャンと、目の前にいるセバスチャンがずれていく。おかしい、これは彼じゃない。何処かでアリスはそう思うけれど、自分の瞳から冷たい何かを感じた時……彼女もまた、初めて気付く。
どうして、彼に復讐したくて堪らなかったのか。
「……ずっと、傍にいてほしかったの……」
「アリス……?」
「好きでなくてもいいから、愛さなくていいから……他の誰かじゃなくて、セバスチャンに……貴方に、私と一緒にいてほしかった。その願いがどれだけ愚かなことだとしても、望んじゃいけないことでも……私には、それが……全てで」
家族でも、友人でもない彼。それでも、何もかもを失ってしまった彼女には、セバスチャンの存在は大切なものになり始めていた。