第26章 愛欲
「やめっ……!」
「私が執事のままでは、貴女を愛せないじゃないですか」
アリスの動きが止まる。
「……な……に」
「なら、貴女から離れて……もがきながら生き延びてくれることを願う他なかった。貴女を幸せにする方法が、あの時の私にはなかったのです」
「嘘、そんなの……嘘」
「悪魔と契約した魂がどうなるかくらい、わかっていました。馬鹿みたいに純粋な貴女に、私は知らぬ間に狂わされていたのかもしれません。再会した時、それが確信へと変わりました。あんなにも大事に想って……アリスに悪魔との契約を切り離したというのに。なのに、再び出会った貴女は私の知らない悪魔と契約をしていた!!」
セバスチャンは乱暴気味に、アリスのスカートを捲って彼女の太腿へと手袋越しに爪を立てる。刻まれている、契約印の上を。
「いっ……! セバスチャン!!」
「こんなにも腹立たしいことはないっ!! 他の男の証を刻まれて、あの頃とは違う顔をして強い瞳をして。自分が初めて憎らしくなりましたよっ、あの時意地でも殺してでも、貴女を私のモノにしておけばこんな惨めな思いをせずに済んだのにと……っ!!」
「クライヴは……別にっ、何でもないから……」
「だから貴女から全て奪い取ってやるんだと。使用人もヴァインツ家の名も屋敷も執事でさえも……! そうすれば、あの頃とは違っても、私は一人の男として……」
切なそうに、苦しげに、セバスチャンはアリスを見つめた。
アリスの瞳に、その姿は確かに映った。