第26章 愛欲
「別に……」
「そういえば、知りたがっていましたね。私が貴女と契約を解いた理由を」
それを聞いて、アリスが嫌な顔をしたのをセバスチャンは見逃さなかった。それでも、彼は口を閉ざさない。
「貴女の魂を、粗悪品だと言ったのは事実です。本当にそう思っていましたし、とても愚かだと思いました……。貴女がラビットファミリーに捕まっている間、私はシエル坊ちゃんにとある方法で呼び出され、彼と契約をしていたのです。だから、貴女が邪魔でした」
セバスチャンの脳裏には、血塗れになったあの頃の幼い少年。シエルの姿が浮かんでいた。決意に満ちた瞳、何が何でも生き延びて復讐を遂げたいと願う心。愚かに汚れながらも、貪欲に手を伸ばす彼に思わずセバスチャンは惹かれていた。
そんなシエルと、天秤にかけてしまうのはとても自然なことだった。
天秤に揺られ、セバスチャンが選択したのはアリスを切り捨ててしまうことだった。幸い、アリスの望みはとてもささやかなものだった為、アリスの状況を知った時にそのまま死んでしまうのなら契約を解いたところで何も変わらないと、そう思っていたのだ。
「結局、私よりシエルがよかったから……だから捨てたことに変わりはないんでしょ!? 今更そんなこと……っ」
「……最も、私は貴女以上に愚かなことを、あの時考えてしまったのです」
セバスチャンは徐にアリスをぎゅっと抱きしめた。暴れるアリスをもろともせず、腕の中に閉じ込める。