第26章 愛欲
宮殿内は、ファントムハイヴ家やヴァインツ家以上の広さがある。当然、警備も強固なものでセバスチャンも移動するだけで一苦労だ。慎重に慎重を重ね、不自然な部屋を見つける。
その扉の前には、警備の者がざっと四、五人は控えている。女王がいるのか? それとも……。セバスチャンは別の部屋から、窓を辿ってその部屋の中を覗くことを決める。
身軽な彼は、難なく警備された部屋を覗き込むことに成功する。
「……これは」
部屋の中にいたのは、ベッドで眠るアリスの姿。どうやら、室内にはアリスただ一人のようだ。当然だが、窓は開いていない。
「入口の警備の人を、ぱぱっと倒してしまうのが早いですかね」
そうと決まれば、行動は早い。彼の常人ではない力により、悲鳴一つ上げさせないように警備の者達を気絶させてしまう。後から、殺した方がよかったのでは……とも考えたがそれはそれで面倒なことになりそうで考え直した。
部屋に鍵はかかっておらず、容易に開けることが出来た。中では窓の外から見た通り、アリスがベッドの上で眠っていた。
「まったく、貴女という人は随分呑気なものですね」
彼女の頭をゆっくり撫でると、セバスチャンは溜息をついた。アリスは自らの立場を理解しているのだろうか?
「んっ……」
「アリス様」
「……ん?」
アリスはゆっくりと瞳を開けた。セバスチャンの顔を見て、ぱっと目を見開いた。