第26章 愛欲
「……僕の代わりに、姫様を助けて下さい。お願い致します」
「わかった。このシエル・ファントムハイヴの名に懸けて、必ずアリスを奪還することをここに誓おう。聞いたな? セバスチャン」
「はい、しっかりと」
そしてセバスチャンは、シエルへと跪く。それを合図にするように、シエルはセバスチャンへと命令を降す。
「セバスチャン、命令だ。アリスを救出しろ!」
「イエス・マイロード」
セバスチャンはにやりと笑んで、すぐにグレイが向かった方へと姿を消した。クライヴは少しだけ、不服そうな表情を浮かべている。
「どうして自分で助けに行こうと思わなかった? 僕らに敢えて声をかけたのは何故だ?」
「そんなの、決まっているじゃないですか」
クライヴの声は、風に浚われていく。
「僕じゃ、駄目だからですよ」
「……お互いに、な」
シエルとクライヴはそのまま、更なる裏路地へと姿を消していく。
一方、セバスチャンの方は早くも女王がいるはずの大きな宮殿の目の前にいた。こういう時に、悪魔は瞬時に移動できるので便利なのかもしれない。
適当に窓を探り、偶然にも開いていた窓から中へと侵入する。偶然……にしたはあまりにも出来過ぎていると言える。これが罠であることなど、セバスチャンにはとっくにお見通しのことだろう。