第3章 一夜
「晩餐まで、暫く時間がありますわ。良ければ、交流会と致しませんか? 私達、名前以外何も知らないと思うの」
「それもそうですね。では、お言葉に甘えて」
「リンス。お茶の準備をしていらっしゃい」
「かしこまりました」
メイドのリンスは、深く会釈すると速やかにその場を後にする。その間も、シエルの傍らにいるセバスチャンは屋敷へと目を凝らす。掃除の行き届いた綺麗な屋敷。
廊下の大理石は鏡のように美しく、上質な絨毯、不思議なほどに埃一つ見当たらない階段の手摺。思わず感嘆の息を、セバスチャンは漏らしてしまう。
「素晴らしい……驚きました」
「ん? ああ……。うちの可愛いメイドが、毎日丹精込めて屋敷を美しく保っていてくれる。女もそうでしょ? 毎日丁寧に心を込めれば、その美しさを少しでも長く保つことが出来る」
「ふふ。アリス様は、そのようなことをなさらなくとも、枯れぬ花のように美しいと思われますが」
「永遠なんてないのよ。セバスチャン」
異様な二人の空気に、シエルは怪しいと言わんばかりに視線を送った。けれど、セバスチャンには然程問題ではないのか「いいメイドをお持ちですね」とその空気を断ち切っていった。
「そういえば、他のメイドが見当たらないのですが。あのお二人だけなのですか?」
「ええ、そうですよ。無駄は出来るだけ省きたい主義で」
「それは僕も同感です。アリス嬢とは気が合いそうで嬉しいです」
「他の人が聞くと、少ない方が逆に無駄が多いのでは? と仰るんですよ。ふふ、可笑しいですよね……」
アリスは優雅に微笑むと、氷のような瞳でシエルを射抜いた。