第25章 真実
「ボクが個人的にアリスを欲しかったから」
当然のことのように、口にする
「壊して、傍に置こうと思った。家族も人間としての普通も奪われて、残るのは絶望だけでしょ? ならもう何も望まなくていいよね? 生きることも死ぬことも。だったらボクが代わりに選んであげる。そうすれば……生きていく意味も、死にたいという感情も必要ない。幸せだね、アリス」
「……そんなの、狂って……るっ」
力ない声で、アリスが絞り出す。グレイは鼻で笑って、アリスの傷口を手荒く掴んだ。
「いっ……」
「口の利き方がなってないね。誰に口答えしてるの? 玩具は玩具らしく大人しくしていてよね。それ以外に使い道のない、無価値でくだらない命の癖に」
途端、セバスチャンがグレイへと切りかかった。グレイは瞬時に剣で受け止め、セバスチャンを睨み上げた。
「……どういうつもり?」
「貴方にアリス様の価値を決める権限などありません。お返し下さい、彼女を」
「これは陛下の命だ。逆らえばどうなるか……わかってる?」
グレイの視線はシエルへと向けられる。その言葉の意味が分からないほど、シエルも愚かではないだろう。彼も女王に仕える、信頼のある番犬。ここで下手な真似をすれば、どうなるか……。
「やめろ、セバスチャン。グレイ伯爵に向けている剣を下ろせ」
「ですが……っ」
「命令だ、下ろせ」
「……はい」
珍しく、悔しそうに剣を下ろすセバスチャンに満足したのか、グレイは踵を返す。その腕に、血塗れのアリスを抱いて。
「もうアリスの監視は必要ないね。それじゃあ、またね伯爵」
消えていく、何もかも。
失われていく存在に、誰もが口を開かない。握りしめていたはずの剣を、セバスチャンとクライヴは同時に地へ落とした。
時は止まる。追いかけてきた陰に、囚われて。
「アリス……」
セバスチャンの、彼女を呼ぶ声だけが、取り残された。