第25章 真実
愛おしいものを映すような瞳。けれどそこにあるのは、深い闇。彼を取り巻く異常で濃厚な血の香りにアリスは目を疑った。そんなはずはないと、彼であるはずがないと、だって彼は……。
「死んだ……はず、じゃ……」
「怪我、してないですか? 嫌ですよ……擦り傷一つ」
アリスとお揃いの赤い瞳が、彼女を優しく見つめる。
「会いたかった……姫様」
ぎゅっと後ろから抱きしめられたアリスは、戸惑いの表情を見せるだけ。クライヴはそれをわかっているのか、いないのか……彼女の耳元で囁いた。
「姫様には、僕だけがいれば十分なんです。他の使用人も、ヴァインツ家という足枷も」
「……まさかっ! クライヴが屋敷を……!!? 他の使用人も、全部……っ!」
「やっと見つけた、僕だけの姫様。なのに……セバスチャンさんが再び現れてからというもの、貴女は変わりました……。僕がいなくとも、一人で立って歩いて行きそうな貴女が……嫌で嫌でしょうがなかった」
「何を、言っているの……?」
クライヴがフードを取れば、光にその姿は晒される。頭上から真っ赤な血を染み込ませながら、むせ返るよな鮮血の香りにアリスはクライヴを一瞥した。
その彼の姿に、沸々と身体の底から這い上がってくる濃厚で密度の高い恐怖に、身体が硬直していくのをアリスは感じた。怖い、こんな彼を、知らない。
「もう一度、二人に戻りましょう?」
クライヴは腰の鞘に手をかけ、銀色に光る剣を抜いた。
「愛しています、姫様……――
――だから全ての役者を、殺してしまいましょう?」
切っ先は、真っ直ぐセバスチャンへと向けられる。