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黒執事 Blood and a doll

第23章 安息



 地位も何もなくても、ただのアリスとして……平和に過ごしたいと願ってしまったのかもしれない。

 それでも、彼女を今に縛り付けたのは呪いのような自分の身体に宿る治癒力のせいだった。小さな怪我ならすぐに治った。それを何度も繰り返すうちに、自分が人間ではないと思うようになった。

 それなりに大きな怪我も、数時間すれば元に戻る。こんな化け物じみた自らが、ここを抜け出しただのアリスになったところでそれは幸せになる為なんかじゃないと思うようになった。やはりそれは、ただの逃げ何だと思うようになった。


「でも、自分をこんな目に遭わせた人間が憎かった。復讐を願った。それが最も、私から幸せを遠ざける行為だったとしても」

「まるでジレンマか……どちらにしても、今の君はただのアリスでいるしかないことに変わりはない。でも、それだった確かな君なんだから嫌ってやるなよ」

「自分を好きになることは、一番難しいのよ」

「なら少しずつでいい」


 シエルはそっと、アリスの手に自らの手を重ねた。


「君の復讐は、遂げられたのか……?」


 アリスはゆっくりを目を見開いて、シエルを直視した。けれどすぐにいつもの表情に戻り、言い放った。

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