第23章 安息
「今は、あまりセバスチャンとお前を二人きりにしたくないと思ってな」
「……どうして?」
「いや、これは僕の単なる杞憂だ。気にしないでくれ」
ベッドの傍に椅子を持ってきて、シエルは腰をかけた。こうして二人が対面している光景は、少し不思議なものがある。彼女らが二人きりになるのは、あの豪華客船以来だからだ。
「ある程度の成り行きは、セバスチャンから聞いた。よく……生きて帰って来てくれた」
シエルは目を伏せ、重い心のまま彼女に語り掛ける。自らの杞憂を背負いながら……それでも、彼女に気付かれないように淡々と。
「昨日言った通りだ。アリスさえよければ、ここに住んでくれ。ヴァインツ家の女王への仕事の件も、僕から女王へ話を通しておこう。もう、君が裏社会で仕事をすることはなくなる……」
「え?」
「悪魔の執事もいないんだ。今の君では、まともに女王の憂いを晴らすことは出来ないだろう」
「……っ、そう……ね。私、本当に全部……失ったのね。ヴァインツ家の誇りでさえも」
「僕から言わせればそんな陳腐な誇りに縋りつくのは、自分に何の誇りもないからだと思っている」
「……なんですって!?」
顔を歪め、アリスは身を震わせ鋭くシエルを睨んでいた。視線に気付きながらも、敢えてシエルは真っ直ぐに彼女と目を合わせた。
「アリス。君は、自分のことが嫌いだろう?」
「……嫌いよ」
「でも僕は、君が好きだよ」
「はあ!?」
拍子抜けしたような、アリスの素っ頓狂な声が部屋に響き渡る。シエルはあまりの過剰なアリスの反応に、可笑しかったのかくすっと笑った。