第22章 独占
「アリス様、一旦我が主の屋敷へ戻りましょう。もし復讐をお考えなら、それは不可能に近い。何故なら、犯人と思われるラビットファミリーは我々が……先程壊滅させたのだから」
「共倒れなんて……やってくれるじゃないの」
「貴女だけでも、無事でよかった。今はお傍にいます……さあ、参りましょう」
アリスはもう一度屋敷も振り返った。全ての始まりでもあり、彼女の歩んできた今までが詰め込まれた場所。けれど燃えてしまえば、ただのガラクタに過ぎないのかもしれない。そう思いながら、前を向いた。
馬車に乗り込み、二人はファントムハイヴ家へと急いだ。
闇は何処までも追いかけてくる。その姿は、形としてはないけれど。人が影を歩くなら、そこに必ず闇は生まれる。その闇は、けして情など持ちはしない。思い出も過去も未来も、人も呑み込んで全てを無にしてしまうだろう。
大事に腕に抱えていたものに、どんな価値があろうとも。
ファントムハイヴ家に着いた二人は、早速シエルに事の有様を報告していた。
「ご苦労だったな、セバスチャン」
「いえ……勿体ないお言葉です」
「それに、アリスも。辛かったろう……あの執事でさえ、戻らなかったのには正直驚いたが」
「そうね……私も同じ意見よ。悪魔だから、簡単には死なないと思っていたのに」
「お言葉ですがアリス様。悪魔は確かに身体能力も人間と違い高く、しぶといと自負しておりますが、けして死なないというわけでもありません。瓦礫はともかく、爆発に巻き込まれて木端微塵となると……どうか」
「嘘よ……クライヴが、いなくなるなんて」
両手で顔を覆い、アリスは身を震わせた。泣いている……のだろうか。シエルは一つ一つ、言葉を選びながら彼女へ語り掛ける。