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黒執事 Blood and a doll

第21章 約束



「騎士気取りは死ね」


 ぐっと男を踏み込み、セバスチャンの懐を狙い飛び込もうとする。アリスが目的である男からすれば、とりあえず今は彼女に危害を加えるつもりはないだろう。そう判断したセバスチャンは、アリスを部屋の隅へと押し退けた。


「きゃっ……!」

「アリス様はそちらでお待ちください」


 男の剣を避けながら、トリッキーな動きを見せる。切っ先で捉えられず、苦戦する男は軽く舌打ちをして額に冷や汗を滲ませていた。


「あんた、ただの執事じゃないな! 何者だ!!」

「私ですか? 私はファントムハイヴ家の執事、セバスチャン・ミカエリスと申します」

「天使の執事じゃないのなら、何故この女を庇う!? 助ける!?」

「そうですね……敢えて申し上げますと、これもまた私の過去への清算なのです」

「なに……?」

「ええ、完璧にあるまじきこと。お嬢様にお仕えしていた時に、お約束したことを守れていないだなんて」

「何の話だ!!」


 適当に地に転がる剣を一つ取ったセバスチャンは、刃で男の剣を受け止めた。金属がぶつかる音が波紋のように広がり、部屋中を満たす。息を呑む様に、アリスはただ事の有様を見守っていた。両手にしっかりと、ブラッディローズを握り締めながら。


「ラビットファミリーを壊滅して差し上げますと、約束したことです」

「お前があの時の……あの時の男かぁあああああッ!!」


 男に押されることなく、剣を受け流しながら美しい太刀筋で翻弄するセバスチャン。少しずつ男はその勢いに呑み込まれるように、一歩、また一歩と後退を続ける。


「貴方みたいな下衆に、奪わせはしませんよ……やっと見つけた、私のただ一人を」


 セバスチャンの剣が、男の剣を一本弾き飛ばした。


「彼女は天使などではありません。愚かで可愛い、私の……」


 男は怯むことなくもう一方の剣を振り下ろした。しかし、セバスチャンはまったく動じない。それもそのはず、しっかりと剣を受け止めるとそれさえも弾き飛ばしてしまった。


「おっと、この先は有料になります」


 切っ先を向け、彼は満足そうに微笑んでいた。

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