第2章 帳
「ああ……、セバスチャン! 本物なのね……会いたかったわ、とっても」
「ふふ、アリス様は相変わらずお美しい……あの頃と、何ら変わりない」
「……姫様。この男と、知り合いなのですか?」
さりげなくアリスからセバスチャンを引き剥がしたクライヴは、自らの内にある疑問を彼女へと問うのであった。
「クライヴは知らなかったわね。私がもう一回り幼かった頃、私の執事をしていたのよ、セバスチャンは」
「執事……?」
クライヴは瞳を丸くしては、セバスチャンを見る。彼はアリスを抱き締めたまま、にっこりと微笑んだ。
「はい、僭越ながら私のような者を執事にして下さり、執事の極意や大切なことを色々と教えて頂きました。お陰様で、今の主には大変ご満足頂けていると思います」
「そうですか。で、貴方ともあろうファントムハイヴ家の執事が、約束の時間より随分早い来訪とは……如何致しましたか? それとも、時間を間違えてしまいましたか?」
「いえ、主人がどうしてもアリス様へ早急にお渡ししたい物があると仰せつかったもので。本来、主人と共にお伺いした際にお渡しすれば良かったのではと思ったのですが、主人がどうしてもと仰るので。私だけ先に、不躾だと承知の上で参った所存です」
「わかったわ。他の者達は伯爵を出迎える準備をそのまま進めて、私は彼を部屋に案内するから誰も邪魔しないで。いいわね? クライヴ」
「かしこまりました」
玄関先でクライヴに見送られながら、アリスとセバスチャンは二人で屋敷の奥へと足を進めた。長い長い廊下を無言で歩き、不思議な程二人の間に会話はない。アリスの部屋へと招き入れられたセバスチャンは、ゆっくりと……けれどしっかり部屋の扉を閉め、鍵をかけた。