第2章 帳
「あら、狼でも招き入れてしまったかしら?」
「それはどうでしょう……悪魔、かもしれませんよ」
セバスチャンは彼女の手を引き、ベッドへと押し倒した。
「何の真似かしら」
「あの頃とは見違えるほどお美しい……あんなにも粗悪な魂だったというのに、いつからこのような上物へ変わられたのですか?」
「ふん。お前がいなくなったからではなくて?」
「……それは。少々妬いてしまいますね。今の貴女の傍らにいる……"悪魔"のお陰ですか?」
セバスチャンは口で自らの手袋を剥ぎ取り、アリスのしなやかな指へ直に重ね絡める。僅かに彼女が反応を見せれば、セバスチャンは喉を鳴らし笑う。
「やっぱりわかるのね、貴方には」
「勿論……同業者とあれば、特に。厭らしい人ですね……どうして、あのような者をお傍に?」
「そんなこと、貴方に関係ある? 裏切り者の下衆悪魔」
「下衆だなんて……とんでもない。私はあくまで残酷に残虐に、甘美な悪魔。それに酔いしれていたのはどこの誰です? 粗悪品のドール」
「殺すわよ」
彼女の瞳が、鋭くセバスチャンの視線と絡み睨む。彼の瞳も、先程とは違う血のように赤い瞳に染まり、獲物を狙う男の目をしていた。
「貴女に悪魔が殺せるとでも? 御冗談を……貴女に出来ることといえば、その厭らしいお身体で、私を狂わせることくらい」
「……んっ」
セバスチャンの舌が、彼女の滑らかな肌を這う。首筋に這う舌の感触に、アリスは身じろぐ。