第16章 南瓜
「そういえば、セバスチャンは仮装しないのかしら?」
「仮装なら既に済んでおります」
「……どこが?」
何処からどう見ても、いつものセバスチャンである。アリスはじろじろと彼を眺め、間違い探しを始めてしまう。セバスチャンはすっと彼女の手を取り、引き寄せる。
「もっとお近くで見てはいかがですか? その方が、見つかるかもしれませんよ」
「ちょっ……! べ、別に近くで見なくてもわかる時はわかるわよ!」
「では、見つかりましたか?」
「……見つからないわよ」
「ふふっ。これなら、どうです?」
彼の指が、アリスの頬をなぞり顎を上げる。至近距離で彼の瞳と目が合って、アリスは心なしか頬を桃色に染める。ふと、彼が笑った時に僅かに違和感を覚えた。
「あら……?」
「どうかなさいましたか?」
「……牙?」
「おや」
見つけましたか、とセバスチャンが口を開けるとそこにはヴァンパイアのような牙。
「ヴァンパイア執事で御座います」
「ああ、そういうこと……地味ね」
「美しい女性の血を求め、彷徨う。それが執事の皮を被っているなんて、質が悪いと思いませんか?」
「そう言ってシエルに納得させたのね」
「流石アリス様。すぐにそういうのは見抜かれてしまいますね」
セバスチャンは彼女の耳元で、そっと囁いた。
「今夜、貴女にお話ししたいことが御座います。少しお時間頂けませんか?」
「……それは、個人的な話?」
「さあ、どうでしょう」
「聞かないと何をされるかわかったもんじゃないものね。いいわよ」
「ありがとうございます」
二人の秘密の会話を眺めながら、クライヴは一つ咳払いをする。それを合図に、二人はぱっと離れた。