第2章 帳
「どうしたの? 遅かったじゃない」
「はい……実は少々問題が発生しまして、姫様の身支度を整えたらそちらに手を回したいのですが、宜しいでしょうか?」
「構わないわ。約束の時間は、厳守よ。わかったわね? 一人で出迎え等、無礼なことをさせないで頂戴」
「はい、仰せのままに」
クライヴは白と赤と黒のコントラスト交じりの洋服を手に取ると、アリスに着替えさせる。彼女の白い肌を見ないよう、クライヴの目にはネクタイで目隠し。その状態で本当に着替えを済ませることが出来るのか、真偽は謎のまま。
「白と赤、黒と白。何故、この服を?」
「アリス様の美しい髪、肌、瞳……その全てを総合して、僭越ながら選ばせて頂いた素晴らしい一着。ああ、やはり貴女にはこの合わせがよく似合う。淡い色、それこそピンクなど……似合うはずもない」
「御託はいいわ。それより、時間は大丈夫なのかしら?」
「そうですね。では、一旦失礼させて頂きます」
クライヴは焦る様子もなく、次の準備へと取り掛かる。彼がいなくなった部屋で、アリスは窓の外を眺めた。窓に映る自分の姿を見つめながら、その瞳は嫌悪感を宿していた。
「屋敷も地位も、女王の目として使命を果たすことも……どれも違う。私が望む悦楽は」
何もはめていない親指を摩る。記憶の片隅にある、指輪を探すように。
「アリス様! 大変ですっ!!」
「どうかしたの?」
慌ただしく入ってくるメイドに、アリスは溜息を漏らした。苛立ちを隠す様子もなく。メイドは怯えながらも、おずおずと述べた。