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黒執事 Blood and a doll

第15章 覚悟



 天使なんてこの世にいない、ましてや慣れるわけもない。


「ボクの天使になってよ、アリス」


 物理的な痛みなんかよりも、心の痛みの方がずっと痛いように思っていたけど、それは間違いだったと今更知る。刃が抜かれ、剣についた血を彼はあろうことか舌を這わせ舐め取った。


「傷口が塞がる様子はなし……か。やっぱり君も、失敗なのかな?」

「っ……」


 興味がなくなったみたいに、彼は目を伏せて剣を鞘に戻した。


「天使になれないのなら、そのまま死んじゃえばいいよ」


 まさか人生で二度も誰かに死ねと言われる日が来るなんて、思いもしなかった……。どいつもこいつも、勝手に私の生を縛った気になって腹立たしいったらない。けど、そんな文句を言えるほどの元気は既に私にない。


「じゃあね、アリス」

「まっ……!」


 留めを刺すこともなく、彼は窓から出て行った。後を追いたかったけど、高熱と出血のせいで意識はまた朦朧とし始める。駄目だ、本当にもう……駄目かもしれない。


「嫌……こんなとこで、死にたくない」


 誰かに振り回されて、利用されて死ぬなんて絶対に嫌。もし死ぬのなら、自分の決めた時に死にたい。だってまだ、私何もしていないもの……折角の女王陛下の命も、きちんとやり遂げていないし。

 ミカエルがいなくなった今、やり遂げることは困難なようにも思うけど。


「天使っていると思いますか?」

「え……?」


 まったく気づかなかった。声のする方へ視線を向ければ、先程グレイさんが出て行った窓に腰掛けた一人の漆黒長髪の男性がいた。その瞳は、赤い。

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